Rolleiflex Standard
10年くらい前になると思うが、クラシックカメラがブームになったことがある。かの赤瀬川先生も中古カメラウイルスの感染者として「中古カメラウイルス図鑑」を発表し、他にもクラシックカメラ関連の雑誌や出版物が相次いで発刊された。銀座松屋の中古カメラ市には全国からクラシックカメラファンが集り、街を歩けばオリンパス・ペンやニコンFなどのジャパニーズクラシックカメラをタスキがけにした美大系の学生に遭遇することもしばしばであった。
ちょうどその頃、知り合いの写真家の元で働いていた助手の一人が、東京四ツ谷で個展を開くというので見に行った。そこで撮影に使ったカメラとして紹介されていたのが、このローライフレックス・スタンダードである。 師匠から譲り受けたという1932年製のローライスタンダードには、アルチザンアーティストのアクリル製のストラップが取り付けられていた。彼はこの旧いローライを肩にかけ、東京から風化しつつある風景を1年かけて撮り歩いた。 展示されていた写真は、モノトーンの淡い濃淡で、湿気を含んだような独特の質感にあふれていた。よく『空気が写る。』というが、まさにその写真には東京が発する二酸化炭素と都市の熱気みたいなものが写っていた。 新宿、大塚、向島、豪徳寺...その一連の作品は大変すばらしいものであった。 その作品を見て、彼のような写真が撮りたい!という欲望がむくむくと湧いてきて、そのローライが真剣に欲しくなってしまった。 さっそく大阪に帰って、東心斎橋のクラシックカメラ店に電話を入れ、店にあった3台のローライ・スタンダードの内、一番状態のよいものがぼくの所有となった。 一番程度がよいといっても、造られてから70年近くも経っている。朝もやのような擦りガラス。シャッターチャージと巻上げが連動しないので、手順を誤ると露光がダブって写真にならない。それでも、「Rolleiflex」とエングレーヴされたネームプレートやぴっちりと張り込まれた貼革、チリチリというコンパーシャッターにすっかり虜になってしまった。 正直、写している最中は不安で一杯だったが、現像からあがってきたネガを見てその苦労は一気に吹き飛んだ。 しっとりとした質感、コントラストが低い分、階調豊かなモノトーンのネガは最新のレンズでは決して再現できない絵画のような表現力があった。 いろいろ撮影してみたが、レンズのコーティングの影響で、屋外では極端にコントラストが低下しハレージョンのような光線が入る事がわかった。試行錯誤を繰り返すうち、ようやくたどり着いたのが、植物園の熱帯植物の撮影である。 ねっとりした水蒸気を含んだ植物園の中で、酸素を吐き出す瞬間の植物たちの写真をこのアンティーク・ローライで写すのは楽しい。腕ではなく、オールドレンズの偶然性がすべてなのだけれど、これほど出来上がりが待ち遠しいことはない。ローライ使いの巨匠アービング・ぺンかナショナルジオグラフィック社のカメラマンにになった気分である。 まだまだ、偶然の域を越えないが、ローライで写した“植物”には命が宿っている。 PS. 生意気でキザな文章になってしまいましたが、kohakuzaさんの「マニアック」に感化され、記事にしました。 モノへのこだわりや愛着は、科学技術や価格では計り知れないものがありますよね。 PS.2 ぼくと同じローライ・スタンダードで撮影した作品を公開されている大阪芸大出身のプロカメラマンさんのサイトを見つけましたので、リンクしときます。 被写体も素敵だし、モノクロームの味わいが最高です。 http://fine.tok2.com/home/mountmagic/lens/oncamera_lens/rollei_standard/rollei_standard.html
by browns_cafe
| 2007-09-20 20:28
| MONO話
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by browns_cafe
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